神戸地方裁判所 昭和32年(わ)402号 判決 1960年12月19日
被告人 富永貿易株式会社代表者 富永寿吉 外四名
主文
被告会社富永貿易株式会社を罰金百弐拾万円に
同株式会社大橋商店を罰金七拾五万円に
同株式会社大同貿易公司を罰金七拾五万円に
被告人吉田鉱平を懲役六月に
同陳瑞麟を懲役八月に
それぞれを処する。
被告人吉田鉱平、同陳瑞麟に対し、この裁判確定の日からいづれも弐年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用中証人小場知治同村西淳一に支給した分は被告人吉田鉱平、同陳瑞麟の連帯負担とし、証人高木幸栄、同押部謹治、同山崎栄作に支給した分は被告会社三会社の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第一、被告会社富永貿易株式会社は、神戸市葺合区御幸通五丁目五番地に本店を有し農水産物の輸出入等の業務を営んでいるものであるところ、その専務取締役田中正夫は、同被告会社の業務に関し、被告会社が香港文咸東街七二号二楼所在の誠隆行に農水産物を輸出するに際し、右誠隆行と話合いの上、実際には別個に契約した輸出価格で輸出するものであるのに拘らず、表面上は右実際輸出価格よりも何割か低い価格で輸出するものゝ如く装つて銀行認証並びに通関手続を受けて輸出(所謂低価輸出)しておき、その表面上の輸出価格(信用状により受領する金額と実際上の輸出価格との差額金は、信用状又は指定受領通貨表示の対外支払手段により受領せずに別途に日本円貨で受領して決済を為すという方式の輸出取引をしようと企て、本来この様な決済方式による輸出は標準外決済方法による輸出に該当し、通商産業大臣の書面による承認を必要とするものであるのに、法定の除外事由なく且つ右書面による承認を受けずに、別紙一覧表第一の「銀行認証申請年月日」欄記載のとおり昭和三〇年五月二日頃より昭和三二年二月二六日頃迄の間前後五一三回に亘り、同表「輸出品目個数」欄記載の枇杷等の農水産物を実際には同表「実際契約価格」欄記載の価格合計一億二千四百三十四万五千四百七十四円で輸出するに拘らず、表面上はこれより低価である同表「申告価格」欄記載の価格合計六千九百二十九万六千二百四十一円である如くにして低価輸出をなすに際し、神戸市生田区栄町通二丁目三四番地所在の外国為替公認銀行である大和銀行支店において、同銀行係員に対し、右低価格のみが当該輸出価格であるとし、実際の売却代金との差額(即ち代金の一部)を別途に日本円貨で入手して受領する事実を秘し、単に表面上の右低価格のみに関し、標準決済方法により輸出するもののように装つて、これに該当する信用状等の必要書類のみを提出し、以て当該輸出代金の支払方法につき虚偽の証明をなし、その都度銀行認証を受けて通関手続を了し、同表「船積年月日」欄記載のとあり昭和三〇年五月三日頃より昭和三二年三月一日頃迄の間前後二六四回に亘り、前記各貨物を神戸港より外国船スラツトマツカサー号等に船積し以て無承認輸出をなした。
第二、被告会社大橋商店は、神戸市生田区相生町三丁目八二番地に本店を有し、農水産物の輸出入等の業務を営んでいるものであるところ、その取締役須田利一郎は、同被告会社の業務に関し、被告会社が前記誠隆行に農水産物を輸出するに際し、第一、記載と同様な標準外決済方法による輸出をしようと企て、通商産業大臣の書面による承認を受けずに、別紙一覧表第二の「銀行認証申請年月日」欄記載のとおり昭和三〇年一月一九日頃より昭和三二年二月二五日頃迄の間前後一一五回に亘り、同表「輸出品目個数」欄記載のするめ等の農水産物を実際には同表「実際契約価格」欄記載の価格合計七千七百三十八万二千六百四十六円で輸出するのに拘らず、表面上はこれより低価である「申告価格」欄記載の価格合計五千七百九十九万千二百十八円である如くして低価輸出をなすに際し、同表「認証銀行」欄記載の外国為替公認銀行である神戸市生田区栄町通三丁目所在の神戸銀行栄町支店等において、同銀行等の係員に対し、右低価格のみが当該輸出価格であるとし、実際の売却代金との差額を別途に日本円で入手して受領する事実を秘し、単に右低価格のみに関し、標準決済方法により輸出するものの如く装つて、これに該当する信用状等の必要書類のみを提出し、以て当該輸出代金の支払方法につき虚偽の証明をなし、その都度銀行認証を受けて通関手続を了し、同表「船積年月日」欄記載のとおり昭和三〇年一月二三日頃より昭和三二年二月二七日頃迄の間前後八二回に亘り、前記各貨物を神戸港より外国船スターアルシヨン号等に船積し以て無承認輸出をなした。
第三、被告会社株式会社大同貿易公司は、神戸市葺合区小野柄通六丁目一二番地に本店を有し、農水産物の輸出入等の業務を営んでいるものであるところ、その常務取締役蔡東興は、同被告会社の業務に関し、被告会社が前記誠隆行に農水産物を輸出するに際し、第一記載と同様な標準外決済方法による輸出をしようと企て、通商産業大臣の書面による承認を受けずに、別紙一覧表第三の「銀行認証」欄記載のとおり昭和三〇年一月五日頃より昭和三二年二月二六日頃迄の間前後一三九回に亘り、同表「輸出品目個数」欄の記載の干鯣等の農水産物を実際には同表「実際契約価格」欄記載の価格合計八千七十九万九千六百九十一円で輸出するのに拘らず、表面上はこれより低価である同表「申告価格」欄記載の価格合計五千七百二十九万七千五百四円である如くして低価輸出をなすに際し「認証銀行」欄記載の外国為替公認銀行である神戸市生田区下山手通二丁目一五番地所在の東京銀行トーアロード支店等において同銀行等の係員に対し右低価輸出のみが当該輸出価格であるとし実際の売却代金との差額を別途に日本円で入手して受領する事実を秘し、単に右低価格のみに関し、標準決済方法により輸出するものの如く装つて、これに該当する信用状等の必要書類のみを提出し、以て当該輸出代金の支払方法につき虚偽の証明を為し、その銀行認証を受けて通関手続を了し、同表「船積年月日」欄記載のとおり昭和三〇年一月七日頃より昭和三二年二月二八日頃迄の間前後九四回に亘り前記各貨物を「船積港」欄記載の神戸港等より外国船プレシデントモンロー号等に船積し、以て無承認輸出をなした。
第四、被告人吉田鉱平は、非居住者である前記の香港の貿易商社誠隆行の日本における連絡員、被告人陳瑞麟は右誠隆行の日本の取引先である右大同貿易公司の経理担当重役で両被告人ともいずれも本邦における居住者であるところ、法定の除外事由がないのに拘らず共謀の上、別紙一覧表第四記載のとおり昭和三〇年一月二六日頃より昭和三二年二月二八日頃迄の間前後五八回に亘り居住者である神戸市生田区相生町三丁目八二番地株式会社大橋商店、同市生田区海岸通四丁目三四番地小幡物産株式会社神戸支店、同市葺合区御幸通五丁目五番地富永貿易株式会社において、誠隆行が右各会社に対し前記の如く低価輸出を為さしめた結果の買受代金残額(実際契約価格と表面上の価格との差額)として支払うべき同表「金額欄」記載の金員合計五千七百七十六万四千二百三十円を非居住者である右誠隆行のために居住者である各会社に対し支払い、以て非居住者のためにする居住者に対する支払をした。
(証拠の標目)(略)
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、被告人吉田鉱平、同陳瑞麟の第四の行為につき
(一) 神戸市灘区高羽楠丘七二番地の四山本とし子方が誠隆行の神戸連絡所であり外国為替及び外国貿易管理法第六条第一項第五号後段により居住者と看做されるから右被告人両名の行為は居住者たる右連絡処のなした支払であつて非居住者のためにする支払にならない。
(二) 仮りに、右神戸連絡処が居住者とみなされないとしても、楊成が右連絡処に滞在していた期間中(昭和三〇年七月二〇日より昭和三一年六月一日まで、昭和三一年一〇月三日より同年一二月二六日まで)になされた支払は罪とならない。なんとなれば、誠隆行は、楊成の個人企業で法人格はないのであるから誠隆行の債務は即ち楊成自身の債務である。ところが、別表第四の11乃至43、47乃至51の支払がなされた当時、楊成は右の如く神戸連絡処に居住し、昭和二六年一二月二一日の大蔵大臣の通牒(蔵理六三七号、外為委一二一七号、日為管甲二五七号)別紙甲「居住性の判定について」により居住者とみなされるから、右支払は居住者楊成のためにする支払であつて、非居住者のためにする支払ではない。なお、右通牒は、外国為替及び外国貿易管理法第六条第二項の白地立法を補充する大蔵大臣の唯一の通牒であるところ、この通牒には、居住者たる法人等についてその外国にある支店出張所等の事務所は非居住者とみなすと規定し、自然人たる居住者の外国にある営業所等について何等の定めもしてないのに、本邦法人等の外国にある支店等についての右規定を類推して自然人居住者の外国にある営業所を非居住者とみなすとの解釈は、憲法の保障する事後立法禁止の原則に違背する措置であるから右の如き解釈をなし得るものではなく、右支払が楊成の香港営業所の営業のためであつても、香港の誠隆行は楊成の日本滞在中に限り居住者として取扱われるべきである。楊成日本滞在中の右支払は無罪である。
旨主張する。
先づ(一)の主張について按ずるに、外国為替及び外国貿易管理法(以下外為法又は単に法と略称)第六条第一項第五号は前段に「居住者とは、本邦内に住所又は居所を有する自然人及び本邦内に主たる事務所を有する法人をいう」第六号には「非居住者とは、居住者以外の自然人及び法人をいう」と規定し、第五号後段に「非居住者の本邦内の支店、出張所その他の事務所は、法律上代理権があると否とに拘らず、その主たる事務所が外国にある場合においても居住者とみなす」と規定しているから、誠隆行神戸連絡処は、主たる事務所(本店)である香港の誠隆行を代理して商取引をなす権限なく単に日本における商況を本店に通報し、本店が輸入すべき商品の検品、船積、クレームの折衝等に当る所謂連絡所に過ぎないものであつても、非居住者である香港の本店とは別個に取扱われ居住者とみなされる。しかし、別表第四記載の支払は、いづれも香港の本店が被告会社等から判示の如き低価輸入をした結果負担した差額金債務の支払のため、香港の自由為替市場を利用して闇送金(香港のローカルバンクと称せられる銭荘に到りその時の自由為替相場で換算した送金希望の日本円相当の香港弗を渡し、誠隆行神戸連絡所や被告人陳宛に送金を依頼すると、その二、三日乃至数日後に不特定人が日本円を日本の右送金先に持参する。)してきた日本円を、被告人陳、吉田の両名において誠隆行の指示に従い被告会社等に支払つたものであること前掲証拠によつて明らかなる以上、非居住(注原文のまま)たる香港の誠隆行(本店)のためにする支払であつて、外為法上海外の本店と別個に居住者として取扱われる神戸連絡処のためにする支払ではない。弁護人の右(一)の主張は採用しない。
次に、(二)の主張について判断する。先づ誠隆行の性格即ち法人か、楊成の個人経営かの点であるが、楊成の設楽検事宛の書信(証第一一号)及び香港政庁作成の事業登記証明書(写真)によれば、個人経営(Sole Proprietorship)又は、中国独特の企業形態である合股と称する一種の匿名組合で出資者はあつても外部に対しては一切秘密にされ、表面上は一個人の責任と勘定において事業が経営される種類のものと推定され、法人又はこれに準ずる企業形態と認定することは困難である。
もし誠隆行が法人又はこれに準すべき企業形態のものであれば問題はないが、楊成の個人経営とすれば、その楊成が誠隆行の神戸連絡処に滞在し、昭和二六年一二月二一日蔵理第六三七号、外為委一二一七号日為管甲二五七号「特別預金制度の廃止に伴い許可される米弗預金勘定の外国為替公認銀行の取扱について」の別紙甲「居住性の判定について」と題する通牒(昭和三五年三月一〇日蔵為九四〇号で廃止され「居住性の判定の基準について」に改められたがその内容に大差はない)の自然人の項第二により外国人居住者として取扱われるに至つた場合、楊成が従前通り香港で経営(判示第四関係の前掲証拠によれば誠隆行には相当数の従業員がいるので楊成不在でも事業の運営に支障なく、楊成は香港本店と神戸の連絡処間を往復し半年位づつ双方に滞在していた模様である。)している誠隆行が外為法上経営者個人の居住性(居住者、非居住者の別)に従つて居住者扱となるのか(その後楊成が出国すれば非居住者扱となるのか)、或は又、経営者個人とは別個に取扱われて非居住者とみなされるのか、即ち外国人居住者(日本人の居住者でも同様だが)の海外営業所の居住性如何が問題となる。
そもそも本邦に滞在する外国人の居住性の判定について、右通牒が、「六ヶ月未満滞日の目的で入国しその期間内の者は本邦内で営業又は勤務に従事しない限り非居住者とし、六ヶ月を超えて滞日する者は、なお継続して非居住者の扱を希望し、その経済的活動の本拠が海外にあつて本邦にて収入を得てないことを立証してその認定を受けない限り居住者扱とする」旨の居住性判定基準を定めている所以のものは、本邦にある外国人で経済活動の本拠が海外にあつて本邦で収入を得てないものは、本邦で居住していても非居住者とみなし、外貨等対外支払手段を持ち、これに依拠して生活することが認められ、外貨等の集中義務を殆んど免除される等の特権を与えることにすると共に、本邦で営業や勤務についたり、六ヶ月以上も長滞在するものは、その経済活動の本拠が本邦にあるものとみて居住者扱にして、本邦内で外貨依存の生活をし得る外為法上の治外法権的特権を認めないことにするために外ならない。本邦に滞在中の外国人が海外で経営している貿易事業を不可能にするために居住者扱いにするものでないことは、国際協調の立前から海外バイヤーの貿易事業に対する影響を最小限度に止めつゝ外国為替を管理し外国貿易の正常な発展を図らんとする外為法の精神から疑を容れない。ところが、海外のバイヤーの本邦滞在が長びいたり、営利活動に従事したりして居住者扱いになつた場合、そのバイヤー経営の海外商社(バイヤー個人経営の海外営業所)も本人の居住性に従つて居住者扱になるとすれば、法第二二条第二五条、外国為替管理令第三条により外貨等の集中義務が課せられ、右海外商社は爾後対日貿易事業を継続不能となる不合理な結果となる。
元来、居住者、非居住者の概念は、外為法上、為替統制の基本となる重要なものであるから、これを定義している法第六条第五号は右の如き不都合を生ずることのないように外為法の精神、理念、法益保護の目的、為替取引統制に伴う特有の技術的性格等を考慮して合理的に解釈しなければならない。そこで、右第五号の条文には前記の如く非居住者(法人たると個人たるとを問わない)の本邦内の支店等の営業所を居住者とみなすと規定し、居住者の海外支店等の営業所については表面的には規定していないが、右規定の裏面には居住者(法人たると個人たるとを問わない)海外支店等の営業所を非居住者とみなすとの趣旨を含んでいるものと解し、居住者の海外営業所を本邦に居住する経営者本人の居住性と別個に取扱い、外為法上は非居住者とみなされるものと解釈するを相当とする。然らば、香港の誠隆行は、楊成の個人経営であり、且つ、楊成はその神戸連絡処滞在中は居住者とみなされるものとするも、その居住者とみなされている期間は、同人の香港の営業所、誠隆行は非居住者とみなされることになるわけである。
もつとも、外国為替管理委員会(外為委と略称、後に廃止されその権限は、大蔵大臣、通産大臣が分掌)の前記昭和二六年一二月二一日の居住性の判定についての通牒には、右の如き法第六条第五号後段の反面解釈を居住者中の法人等に適用すべきことを示し、本邦法人等の海外支店等の営業所、出張所を非居住者とみなす旨を定めているのに拘らず、自然人たる居住者の海外営業所等については何等の定めをしてないことから、弁護人は、右通牒は、自然人居住者の海外営業所を法人等のそれとその取扱を異にし、非居住者とみなすことなく居住者として取扱う趣旨であると解しているものの如くであるが、証人村西淳一の証言によれば、右通牒が本邦法人等の海外支店等について法第六条第五号後段の裏返し解釈を示しながら、自然人居住者の海外営業所等につき同様の解釈を示さなかつたのは、弁護人主張の如く法人等の海外支店等の営業所を非居住者とするも、自然人居住者のそれは居住者とみなすとの趣旨で殊更らに自然人居住者の海外支店等の営業所につき法人等と同様の定めをしなかつたものではなく、法人等は事業の規模も個人に比して大きく海外に支店等の営業所を設けるものが多いので取敢ず法人等の海外支店等につき一応の判定基準を通知したもので、本件の如く海外貿易商社の経営者自ら来日して居住者扱となりながら、海外営業所では従前通り事業を営んでいる稀有の場合に思いを致さなかつたために過ぎないことが窺われる。そうだとすれば、右通牒が、本邦法人等の海外支店等について法第六条第五号後段の裏面解釈による判定基準を示しながら、自然人居住者のそれに同様の判定基準を示していないことから、直ちに、弁護人主張の如く自然人居住者の海外営業所を外為法上居住者と取扱うべきものと解釈することはできない。右通牒は、法第六条第二項が居住性が明白でない具体的ケースが生じた場合の判定を大蔵大臣(外為委廃止前は外為委)が決定するものとしてあるので、昭和二七年一月一日から特別預金勘定制度を廃止し非居住者及び運輸、保険等を営む特殊の居住者に対し米弗預金勘定開設を許すことにした機会に、右預金事務を取扱う銀行に対し、居住者、非居住者の判定について、その事務取扱上の一応の基準を通知したものに過ぎないものであるから(即ち外為委から日本銀行為替管理局長宛の通牒で、日本銀行為替管理局長は同一内容のものを数日後に日為管甲第二五七号として外国為替公認銀行代表者等の関係筋に通知しているが、一般国民に公示されたものではなく、弁護人主張の如く白地立法を補充する政令、外為委規則、大蔵省令等と同一に論すべきものではない。)、右通牒に自然人居住者の海外営業所の居住性について何等の解釈も示していないのに、前記の如く外為法の精神等から法第六条第一項第五号を合理的に解釈した結果、自然人居住者の海外営業所も法人等居住者の海外支店等の営業所について右通牒が示している解釈と同様に非居住者とみなすべきものとする結論になつたからといつて事後立法禁止の原則に違背し、憲法第三一条に違反するものではない。むしろ、法第六条第一項第五号が前示の如く後段の裏返し解釈(非居住者の本邦内の支店等の営業所を居住者とみなす」を裏返せば「居住者の海外支店等の営業所は非居住者とみなす」となり、その居住者は法人等たると自然人たるとを問わない)の趣旨をも含んでいるからこそ、右通牒が法人等の海外支店等の居住性の判定についてこれを非居住者とみる旨を定め得たものといわなければならない。
要するに、居住者の海外営業所は、外為法上非居住者とみなされるものであるから、弁護人主張の期間楊成が神戸連絡処に滞在し居住者とみなされていたとしても、その期間内に被告人陳、吉田によつてなされた別表第四中11乃至43、47乃至51の支払も、楊成が香港に帰住中なされた他の支払と同様に誠隆行が被告会社等から判示の如き低価輸入をした結果負担した差額金債務の支払であること前示認定の如くなる以上、非居住者とみなされる香港誠隆行のためにする支払であつて居住者たる楊成のための支払とはならない。弁護人の(二)の主張も採用できない。
(法令の適用)
第一乃至第三の所為中各虚偽証明の点は、外国為替及び外国貿易管理法第四九条、輸出貿易管理令第三条第一項、標準決済方法に関する規則第三条附表第一、外国為替及び外国貿易管理法第七二条第六号後段第七三条に、各承認輸出の点は、外国為替及び外国貿易管理法第四八条第一項、輸出貿易管理令第一条第一項第三号、外国為替及び外国貿易管理法第七〇条第二一号(昭和三三年改正前の第二二号)第七三条に各該当するところ、虚偽証明の行為(貨物代金の支払が標準外決済方法によるものを標準決済方法によるものゝ如くに証明した行為)と無承認輸出の行為(標準決済方法によらない右貨物を輸出承認なしで右虚偽証明に基き通関輸出した行為)とは互に手段結果の関係にあると認めるを相当とするから、刑法第五四条第一項後段第一〇条により、それぞれ重い無承認輸出の罪(別表一覧表第一乃至第三記載の如く、虚偽証明の都度その貨物を輸出したものがあり、数回分の虚偽証明にかゝる貨物を一括して輸出したものがある結果、表第一は二六四個の、表第二は八二個の、表第三は九四個の無承認輸出の罪が成立する)の刑に従い、右は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第二項に則り所定の罰金額を合算した額の範囲内で、中共、朝鮮、台湾の競争相手とせり合う我国農水産物輸出業者の苦況につけ込む巧妙な香港商社側の駈引に乗ぜられ不本意ながら低価輸出を敢てするに至つた事情を参酌し被告三会社に対し各主文のとおり量刑する。
被告人吉田鉱平、同陳瑞麟の第四の各行為は、外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第三号前段第七〇条第七号(昭和三三年改正前の第八号)刑法第六〇条に各該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑のみのものを選択し、右は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条によりいずれも犯情最も重い別紙一覧表第四の24の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人両名に対し各主文の刑を量定し、情状にかんがみ今回は右各懲役刑の執行を猶予するを相当と認め同法第二五条第一項を適用してこの裁判確定の日から、いづれも二年間右各刑の執行を猶予する。
訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文第一八二条により証人小場知治、同村西淳一に支給した分は、被告人吉田鉱平、同陳瑞麟の、証人高木幸栄、同押部謹治、同山崎栄市に支給した分は被告三会社の各連帯負担とする。
なお、昭和三二年三月二〇日付、起訴状添付表第一の343、同表第三の4、38、75、76は起訴状記載が事実とするも申告価格と実際契約価格とは同一であつて虚偽証明でも、無承認輸出でもなく何等犯罪となるものでないから決定を以て公訴を棄却すべきところ同表第一の343は別表第一の342の貨物の164回の無承認輸出と、起訴状添付表第三の75は別表第三の74の貨物の56回の無承認輸出と、起訴状添付表第三の76は別表第三の77、78の貨物の57回の無承認輸出とそれぞれ一罪の関係にあるものとして起訴されたものと認められるから、起訴状添付表第三の4、38以外については別に公訴棄却の決定をしなかつた。
以上の理由により主文のとおり判決する。
(裁判官 江上芳雄)
別紙一覧表(略)